出張先で通い慣れた小さな食堂で、いつも気になっていた「ほうとう」をやっと食べました。
メニューの端に小さく載っているだけなのに、視線が吸い寄せられてしまう存在でした。
ただし調理時間は約20分とかかれていて、昼休みの短い時間では踏み切れませんでした。
きょうは珍しく時間にゆとりがあり、外はぐっと冷え込む昼でした。
これはもう食べるしかないと思い、念願の一杯をお願いしました。
目次
Toggle1)ほうとうとは
ほうとうは山梨の郷土料理です。
幅広でもちもちの平打ち麺を、味噌仕立てのつゆで野菜と一緒に煮込むのが定番です。
麺を別ゆでにせず土鍋でそのまま煮るため、小麦のとろみがつゆに自然に溶け出します。
かぼちゃの甘みや根菜のコクが重なり、体にやさしい粘度のあるスープになります。
具材はかぼちゃ、白菜、長ねぎ、にんじん、きのこ類、ごぼうなど季節の野菜が中心です。
味噌の配合は店ごとに違い、白味噌寄りならまろやかに、赤味噌寄りなら力強い味わいになります。
同じ「ほうとう」でも土地と店の個性がきちんと器の中に表れます。
2)出張中の行きつけで、ついに注文しました
通い慣れたその店は、一軒家を改装したこじんまりとした食堂です。
入口の風除室を抜けると、木のカウンターと小上がりがあり、昼どきは近所の常連でにぎわいます。
壁の短冊メニューには「ほうとう(調理に20分かかります)」と小さく書かれていました。
これまで何度もその札に手が伸びかけましたが、昼休憩が短く、なかなか選べませんでした。
きょうは時間に余裕があったので、店に向かう前に電話で「ほうとう」を予約してから向かいました。
到着したころには、味噌と出汁の香りが客席までやさしく漂ってきていました。
待つあいだ、その香りが食欲をゆっくり目覚めさせる助走のように感じられました。
やがて土鍋のまま供された一杯は、蓋を開けた瞬間に白い湯気が視界を塗り替えました。
ふちでぐつぐつと音を立てるスープをそっとかき混ぜると、平たい麺が底から顔を出しました。
3)野菜たっぷりで、寒さにしみる一杯でした
まずはつゆをひと口いただきました。
かぼちゃの甘みが味噌の塩味をやわらげ、口当たりは丸く、後味はすっと引きます。
白菜は芯まで透き通るようにやわらかく、長ねぎはとろりと溶け、きのこは出汁の旨みを増幅します。
ごぼうの土の香りが全体に奥行きを与え、鍋の中を一つの料理としてまとめ上げます。
主役の麺は幅広で、箸で持ち上げると厚みの分だけ心地よい重みがあります。
噛めばもっちりとした弾力が返ってきて、飲み込む直前に小麦の香りがふわっと立ち上がります。
煮込みで角が取れ、舌ざわりはするりとしていて、野菜の量が多いので最後まで飽きません。
途中で卓上の七味をひとふりすると、香りがぱっと立ち、体の芯にぽっと灯がともるように温まります。
食べ進めるほどに汗がじんわりとにじみ、外の冷たい空気がむしろ心地よく感じられました。
温かいだけではなく、野菜をしっかり食べた満足感が残り、栄養のバランスの良さを素直に実感しました。
感想
野菜がたっぷりで、どの具材もやさしい味わいでした。
出張中の昼ごはんはつい手早い総菜や丼ものに偏りがちですが、ほうとうは「整える一杯」だと感じました。
少し食べ進めただけで体の芯から温まり、実家で健康を気遣ってもらったような安心感がありました。
20分の待ち時間は、忙しい日の昼には長く見えますが、出来上がりを前にすると不思議と短く感じます。
鍋がことこと煮える音や、立ちのぼる味噌の香りが、料理の一部として記憶に刻まれるからだと思います。
終わりに
念願だった「ほうとう」は、寒さと仕事の疲れにしみわたる一杯でした。
旅先で見慣れた店にも、まだ味わっていない定番が静かに待っているのだと実感しました。
次の出張では混雑の時間帯を外して、またゆっくりと土鍋の前で待つ時間を楽しみたいと思います。
その日の午後の仕事が、きっと少しだけ穏やかに進む気がします。


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